・片頭痛には基本的治療としてトリプタン,NSAIDs,制吐薬などを使用する.
・頭痛日数,服薬日数が多い場合には片頭痛予防療法を行う.それでも改善しなければCGRP関連抗体薬(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ等)の使用も考慮する.
・頭痛診断は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準に沿って行い、頭痛の診療ガイドライン2021も参考にする
・片頭痛の発症抑制薬としてカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)薬が開発され,今までとは治療が大きく変わった. CGRP薬は皮下投与になるので、自己注射可能である事が必要.
★診断
・閃輝暗点などの前兆の有無により前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別される.片頭痛の診断は表の診断基準に沿って行う.
・片頭痛の概念は広くとらえられるようになっており,両側性,非拍動性でも片頭痛と診断されるケースが多数ある.
・診断のポイントは,頭痛により生活に支障があること,日常的な動作により頭痛が増悪すること,頭痛発作中に音や光,臭いに過敏になることである.悪心,嘔吐も重要な随伴症状である.
・肩こりや頸部痛を多くの片頭痛患者が予兆や随伴症状として訴える.このため緊張型頭痛と診断され適切な治療がなされてない事があるので気をつける.肩こりや頚部痛も片頭痛の症状かもしれないという認識が必要.
・前兆として運動麻痺がある場合は片麻痺性片頭痛,複視や失調など脳幹に由来する神経徴候がある場合には脳幹性前兆を伴う片頭痛(脳底型片頭痛)である.
★治療
片頭痛による苦痛とQOL阻害の軽減が必要で,急性期治療と予防治療がある.
A.急性期治療
1.軽度の頭痛発作(日常生活の支障が軽度)→対症療法でOK
1)アセトアミノフェン(カロナール)錠(500mg) 1回2錠 頓用
2)ロキソプロフェン(ロキソニン)錠(60mg) 1回1~2錠 頓用
B.中等度以上の発作(日常生活に支障がある)
経口トリプタンが第1選択である.頭痛がはじまってからなるべく早く使用する.前兆期の服用は効果が減弱するので推奨されない.虚血性心疾患,脳血管障害のある患者には禁忌 トリプタンは運転禁忌
1)スマトリプタン(イミグラン)錠(50mg) 1回1~2錠 頓用
2)ゾルミトリプタン(ゾーミッグ)RM錠(2.5mg) 1回1~2錠 頓用
3)エレトリプタン(レルパックス)錠(20mg) 1回1~2錠 頓用
4)リザトリプタン(マクサルト)RPD錠(10mg) 1回1錠 頓用 プロプラノロール錠併用禁忌
5)ナラトリプタン(アマージ)錠(2.5mg) 1回1錠 頓用
効果不十分であれば2時間後(ナラトリプタンは4時間後)に追加投与する.スマトリプタン,ゾルミトリプタンは1日4錠まで,エレトリプタン,リザトリプタン,ナラトリプタンは1日2錠まで.
トリプタン無効例,禁忌例には血管収縮作用のないラスミジタン(レイボー)を用いる.
6)ラスミジタン(レイボー)錠(100mg) 1回1錠 頓用.
効果および,眠気,ふらつきなどの副作用とのバランスで1回50~200mg使用
悪心を伴う場合は制吐薬を併用する.
7)ドンペリドン(ナウゼリン)OD錠(5・10mg) 1回5~10mg 頓用 1日3回程度まで
C.重度の発作で悪心,嘔吐を伴う場合
1)スマトリプタン(イミグラン)キット皮下注 1回3mg 皮下注 頓用.1時間あけて再投与可能 1日2回まで
2)スマトリプタン(イミグラン)点鼻液 1回20mg 点鼻 頓用,2時間以上あけて追加可能 1日2回まで
D.予防療法・・・発作頻度や頭痛日数が多い場合や,急性期治療薬のみでは十分な改善が得られない場合には予防療法を検討する.
1)ロメリジン(ミグシス)錠(5mg) 1回1~2錠 1日2回 朝・夕 妊婦禁忌
2)バルプロ酸(デパケン)R錠(200mg) 1回2~3錠 またはバルプロ酸(セレニカ)R錠(400mg) 1回1錠 1日1回 夕食後. 妊婦禁忌
3)プロプラノロール(インデラル)錠(10mg) 1回1~2錠 1日3回 毎食後
4)アミトリプチリン(トリプタノール)錠(10mg) 1回0.5~3錠 1日1回 夕または就寝前(適応外使用が認められている) 抗コリン作用あるので緑内障や前立腺肥大による尿閉注意
既存の予防薬が無効または有害事象で使用できないケースにはCGRP(calcitonin gene-related peptide)関連抗体薬を使用する.
1)ガルカネズマブ(エムガルティ)注 1回120mg(初回は240mg) 月1回 皮下注
2)エレヌマブ(アイモビーグ)注 1回70mg 4週に1回 皮下注
3)フレマネズマブ(アジョビ)注 1回225mg 4週に1回 皮下注,または1回675mg 12週に1回 皮下注
※保険適用の用件(既承認薬が使用できない.片頭痛4日/月以上)に注意して使用
以下の場合には専門医へコンサルトする
・2次性頭痛が疑われる場合,片頭痛として典型的でないケース.(他の原因検索が必要)
・3か月以上にわたり,頭痛日数が>15日/月,急性期治療薬の服薬日数が>10日/月(診断が合っているか、治療が合っているか確認が必要)
以下の場合には高次医療機関に搬送する
・「これまでに経験したことがない頭痛」,「人生最悪の頭痛」との訴えがある場合は,必ず2次性頭痛を除外しておく.緑内障発作,くも膜下出血,可逆性脳血管れん縮症候群(RCVS)などに注意.発熱があれば髄膜炎,脳炎にも注意.
★ポイント
・2次性頭痛の可能性があればすみやかに精査する.
・1次性頭痛の可能性が高く複雑な症例は,頭痛ダイアリーを記録させて,「頭痛外来」など専門外来での診療を勧める.
・トリプタンは頭痛がはじまってからなるべく早期に服用する.(前兆があるからといって事前に内服しない)
・服薬日数が多い場合,急性期治療薬のみでは十分にQOLの阻害を取り除けない場合は予防薬が必要である.
・予防薬の効果発現には1か月以上かかるので効果判定は2か月後に行う.
・市販の鎮痛薬を含め,急性期治療薬の使用日数が10日を超えると薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を誘発する可能性がある.
・片頭痛発作では,音過敏,光過敏があるので発作中は暗くて静かな環境になるよう配慮する.
・1次性頭痛の患者が,くも膜下出血など2次性頭痛を起こすこともあるのでいつもと違う頭痛には注意.
・片頭痛の治療薬は,急性期治療に用いる薬と予防療法に用いる薬の役割分担があるので混同しないこと.
・CGRP関連薬剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグ等)や選択的5-HT1F 受容体作動薬(レイボー錠)が使用可能になったので、患者にとっては大きなメリットである.特にCGRP薬はCGRP 関連新規片頭痛治療薬ガイドラインを熟読して使用する必要がある.