江戸川区一之江のクリニック

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糖尿病

糖尿病は、血中のブドウ糖(血糖)のコントロールが失われ、血糖値が高くなる慢性的な状態を指します。通常、食事から摂取した糖や炭水化物は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって細胞に取り込まれ、エネルギー源として利用されます。しかし、糖尿病では、このインスリンの働きが不足するか、効果が低下し、結果として血糖値が上昇します。

糖尿病は主に次の2つのタイプに分類されます。

1型糖尿病:免疫系が誤ってインスリンを作り出す膵臓のβ細胞を攻撃し、破壊する自己免疫疾患として知られています。その結果、体内でほとんどまたは全くインスリンが生成されず、外部からのインスリン補充が必要になります。通常、若い年齢で発症し、遺伝的な要因も関与しています。

2型糖尿病:インスリンの抵抗性やインスリン分泌の低下によって発症します。インスリンの効果が低下するため、体内で十分な量のインスリンが生成されていても、効果的に利用されません。2型糖尿病は、肥満、運動不足、遺伝的な要因など、複数の要因が絡んで発症することが多いです。高齢者に多いですが、近年は若年化も進んでいます。

糖尿病は未治療であれば合併症を引き起こす可能性があります。心血管疾患、脳血管疾患、網膜症、腎疾患、神経障害などが挙げられます。定期的な受診(血液検査含む)と生活習慣の改善が重要です。食事や運動、適切な医療ケア、薬物治療などが糖尿病管理の中心となります。

★2型糖尿病について(糖尿病全体の90%以上を占める)
・初診時に口渇や多飲,多尿,体重減少を認める場合,血糖値やHbA1cに加え,尿ケトン体を評価し,インスリンの適応を判断する.病歴が長く,インスリン分泌が重度に低下した場合や,重篤な感染症や外傷など一時的なインスリン依存状態,若年の肥満男性に多い清涼飲料水ケトーシスによる一時的なインスリン依存状態にある場合,インスリンを用いた集中治療のできる医療施設に搬送する.
・インスリン非依存状態の場合には,まず健康的な食事や運動に関する教育・支援が重要であり,治療に対する準備状況や生活全般を理解したうえで本人の具体的な目標決定を支援する.
・2~3か月,適切な食事・運動を続けても血糖管理の目標を達成できない場合には,コストなども考慮して本人とともに治療薬を選択する.初診時にHbA1c9.0%以上のときは,食事・運動に関する教育に加えて治療薬を開始する.・HbA1cの目標は,年齢や罹病期間,臓器障害,低血糖の危険性,サポート体制を考慮して個別に設定する.
A. 2型糖尿病の病態
・インスリン分泌障害とインスリン抵抗性があいまって慢性高血糖をきたす.
・遺伝因子と環境因子(過食,運動不足など)および加齢が加わり発症する.前者は主にインスリン分泌障害と関連し,後者は主に抵抗性と関連する.
・著明な高血糖により典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)を呈することがあるが,一般的に無症状な場合が少なくない.
・慢性的に高血糖状態が持続することで細小血管障害(神経障害,網膜症,腎症),大血管障害(脳血管疾患,虚血性心疾患,末梢動脈疾患など)を生じうる.


B. 2型糖尿病の診断
・問診では,口渇や多飲,多尿,体重減少,易疲労感といった著明な高血糖時にみられる症状や下肢の感覚異常・疼痛,浮腫,視力低下,勃起障害など糖尿病合併症に関連する症状の有無を確認する.過去の健診結果や他疾患で受診した際の血糖値やHbA1c,尿糖,家族歴,20歳以降の体重推移についても聴取する.また,ステロイドなど血糖上昇をきたす薬剤の使用についても確認する.
・身体診察では,バイタルサインに加え,肝臓の触診,腱反射や振動覚,下腿浮腫や足背動脈触知の有無,足の潰瘍・胼胝などを評価する.先端巨大症やクッシング症候群,バセドウ病などその他の特定の機序,疾患による糖尿病を示唆する所見がないことも確認する.高血糖状態が長期持続している場合,急速な血糖改善に伴い網膜症が増悪することがあるため,病歴不詳時には眼科へ眼底の評価を依頼する.
・血液検査では,血糖値およびHbA1cを測定し,糖尿病の確定診断を行う.HbA1cのみでは糖尿病と診断できず,必ず血糖値が必要となる.
・糖尿病の家族歴や肥満歴がない場合,1型糖尿病や膵癌などの悪性新生物も念頭におき検査を進める.1型糖尿病については,血中インスリン,尿ケトン体,可能ならば抗GAD抗体などの自己抗体を測定する.悪性新生物については,超音波検査を含め画像検査を実施する.
・腎症を評価するには,採血検査にてクレアチニンを測定しeGFRを算出する.また,尿検査にて尿蛋白を定性評価する.特に尿蛋白±以上であれば,尿アルブミン/クレアチン定量を行い病期を判定する.古典的な糖尿病性腎症では,尿蛋白,尿アルブミンの評価が重要であり,定期的に尿検査が必要.
・糖尿病の病態を把握するために,インスリン分泌能およびインスリン抵抗性を評価する.「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」では,BMI25未満でインスリン分泌障害の存在を想定し,BMI25以上でインスリン抵抗性の存在を想定するとしているが,BMI25未満でも内臓脂肪蓄積によりインスリン抵抗性が存在することがあるので注意.
・インスリン分泌能の指標として,空腹時の血中C-ペプチド(0.6ng/mL未満ならインスリン注射がないと生命に危機が及ぶインスリン依存状態の可能性が高い)やC-ペプチド・インデックス(100×血中C-ペプチド値/血糖値,0.8未満なら高血糖是正のためにインスリン導入となる可能性が高い)が有用である.また,75g経口ブドウ糖負荷試験より算出されるインスリン分泌指数(負荷後30分の血中インスリン増加量を血糖値の増加量で除した値,糖尿病では0.4以下であり境界型でも0.4以下のものは糖尿病への進展率が高い)もよい指標となる
・インスリン抵抗性の指標の1つとして,早朝空腹時の血中インスリン値(15μU/mL以上なら明らかなインスリン抵抗性の存在が考えられる)や早朝空腹時の血中インスリン値と血糖値から計算されるHOMA-IR(1.6以下の場合は正常,2.5以上の場合にインスリン抵抗性の存在が考えられる)がある.


C.2型糖尿病の治療方針
・糖尿病治療の目標は,糖尿病のない人と変わらないQOLの維持,寿命の確保にあり,糖尿病性腎症に代表される細小血管障害のみならず,虚血性心疾患や脳血管障害,末梢動脈疾患などの動脈硬化性疾患の発症・進展の阻止が重要である.細小血管障害の発症予防や進展の抑制には,健康的な食事・運動の実践に加え,必要に応じて糖尿病治療薬を用いることで,重症低血糖を起こさないようにHbA1c7.0%未満を目指す.ただし,65歳以上の高齢者については,認知機能,ADL,合併症,重症低血糖の可能性などを考慮して目標とするHbA1cを個別に決定する.
・受診時に口渇や多飲,多尿,体重減少など,著明な高血糖時にみられる症状を認める場合,血糖値やHbA1cに加え,尿ケトン体を評価する.著明な高血糖に加え尿ケトン体陽性の場合,インスリン依存状態が疑われるため,十分な水分補充と可能であればインスリン注射を行い,直ちに専門医に紹介する.

☆インスリン治療が必要な2型糖尿病
 慢性的に高血糖が持続したためにインスリン分泌能が著しく低下してしまっている症例,重篤な感染症や外傷,清涼飲料水の多飲などにより一過性にインスリン依存状態にある症例では,インスリンが絶対適応となる.また,糖尿病合併妊娠や,健康的な食事・運動の実践では血糖管理目標を達成できない妊娠糖尿病もインスリンの絶対的適応となる. インスリン非依存状態でも,①著明な高血糖(空腹時血糖250mg/dL以上,随時血糖350mg/dL以上)を認める場合,②経口血糖降下薬で血糖管理目標が達成できない場合,③やせ型で低栄養状態の場合,④ステロイドにより高血糖をきたす場合,⑤糖毒性を積極的に解除する必要のある場合には,インスリン治療を考慮する.

1.インスリンの導入方法
・遺伝子工学により多様なインスリンが開発され,生理的なインスリン分泌を再現しやすくなってきた.1日にわたり持続的に分泌される基礎インスリンは,持効型溶解インスリンの1日1回ないし2回皮下注射で補充する.注射回数が少ないこともあり外来導入も可能.導入時には0.2単位/kg程度を1日の総インスリン量の目安とし,朝食前の血糖値の推移を確認しながらおおむね2単位ずつ漸増し,目標血糖値を目指す.食後に分泌される追加インスリンの補充はできないため,経口血糖降下薬やGLP-1受容体作動薬と,超速効型インスリンや速効型インスリンの併用が必要となる.追加インスリンは,超速効型インスリンや速効型インスリンを食事のタイミングで1日数回皮下注することで補充する.導入時には少量から開始し,注射した食事の次の食前の血糖値の推移を確認しながら漸増する.持効型溶解インスリンとともに導入する場合には,0.2単位/kg程度を1日の総インスリン量の目安とし,半分を持効型溶解インスリンに,残りの半分を超速効型インスリンや速効型インスリンに割り振ることが多い.
外来導入の場合
例)インスリンデグルデク(トレシーバ)注 1回8単位 皮下注 朝食直前+リナグリプチン(トラゼンタ)錠(5mg) 1回1錠 1日1回 朝食後  (経口血糖降下薬やGLP-1受容体作動薬と併用する)

インスリン治療がすぐには必要でない2型糖尿病の場合
・インスリン非依存状態かつ初診時のHbA1cが9.0%未満であれば,まずは健康的な食事・運動を含め生活習慣改善に向けて教育・支援を行い,2~3か月経過観察したのち血糖管理目標が達成できれば,健康的な食事・運動を継続するのがよい.一方,目標達成できない場合や初診時のHbA1cが9.0%以上であれば,健康的な食事・運動を含め生活習慣改善に向けて教育・支援を行いつつ,経口糖尿病治療薬やGLP-1受容体作動薬を開始する.使用する薬剤については,病態(非肥満ならばインスリン分泌障害,肥満ならばインスリン抵抗性を想定),併存疾患(慢性腎臓病,心不全,心血管疾患)の有無,服薬継続率やコストなどを考慮したうえで適切な選択肢を示し,本人とともに決定する.

1.非肥満の場合
インスリン分泌障害が主な病態であることが多く,インスリン分泌促進系を中心に治療薬を選択する.DPP-4阻害薬は血糖依存的にインスリン分泌を促進し低血糖リスクも少ないことから,わが国の2型糖尿病の初回処方として最も多く選択されている.類天疱瘡や,頻度はきわめてまれであるが急性膵炎について注意する.同じくインスリン分泌促進系のスルホニル尿素(SU)薬やグリニド薬は安価で十分な血糖改善効果が期待できる一方,血糖非依存的にインスリン分泌を促進することから,低血糖について十分な教育を行う.特に高齢者や腎機能低下者において注意が必要である.メトホルミンは,インスリン分泌非促進系ではあるが,日本人を対象にした臨床試験において肥満の有無によらず十分なHbA1c改善作用を示すことから非肥満2型糖尿病においても有用な治療薬の1つである.高齢者や腎機能低下者では特に乳酸アシドーシスに注意する.食後高血糖が顕著な場合にはグリニド薬に加え,α-グルコシダーゼ阻害薬もよい候補となる.痩せ(BMI18.5kg/m2 未満)の場合,体重減少をきたしやすいGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は,サルコペニアやフレイルなど老年症候群のリスクを高める可能性があり注意が必要である.
処方例)
1)シタグリプチン(ジャヌビア)錠(50mg) 1回1錠 1日1回 朝食後  ※DPP-4阻害薬・分泌促進系
2)メトホルミン(メトグルコ)錠(250mg) 1回1錠 1日3回 毎食後 ※ビグアナイド薬・分泌非促進系
3)ミチグリニド(グルファスト)錠(10mg) 1回1錠 1日3回 毎食直前 ※グリニド薬・分泌促進系
4)グリクラジド(グリミクロン)錠(20mg) 1回1錠 1日1回 朝食後 ※SU薬・分泌促進系
1)、2)よりスタート、効果が無ければ3)、4)を併用する

2.肥満の場合
インスリン抵抗性が主な病態であることが多く,減量によるインスリン抵抗性の是正が重要である.血糖改善や合併症の発症・進展阻止に関する有効性や安全性,コストの面からメトホルミンが選択されることが多いが,減量効果は大きくない.GLP-1受容体作動薬は,インスリン分泌促進系であるとともに食欲抑制による減量効果が期待できる.SGLT2阻害薬は,尿糖排出促進により,血糖改善に加え,一定の減量効果が期待できるが尿路・性器感染,体液量減少などの有害事象に注意が必要である.
処方例)
1)メトホルミン(メトグルコ)錠(250・500mg) 1回250mg 1日3回 毎食後から開始し,1回500mg 1日3回 毎食後へ漸増 ※ビグアナイド薬・分泌非促進系
2)エンパグリフロジン(ジャディアンス)錠(10mg) 1回1錠 1日1回 朝食後 ※SGLT-2阻害薬・分泌非促進系
3)セマグルチド(リベルサス)錠(3mg) 1回1錠 1日1回 1日のうち最初の食事または飲水時の前 ※GLP-1受容体作動薬(経口薬)・分泌促進系
4)セマグルチド(オゼンピック)注 1回1.0mg 週1回 皮下注(1回0.25mg 週1回から症状を確認しながら漸増) ※GLP-1受容体作動薬(注射薬)
1)、2)、3)よりスタートし、無効な場合は4)を使用する

3.高齢者の場合
高齢者では,肝・腎の予備能低下や老年症候群により薬剤の有害事象発現リスクが高くなる.具体的には,インスリン,SU薬,グリニド薬による低血糖,メトホルミンによる乳酸アシドーシス,チアゾリジン薬による浮腫,心不全,骨折,α-グルコシダーゼ阻害薬による腸閉塞,SGLT2阻害薬による脱水などの副作用に注意する必要がある.

4.糖尿病治療薬使用上の注意
・メトホルミン:副作用として,乳酸アシドーシスがある.強い倦怠感,吐き気,下痢,筋肉痛などの初期症状が現れたら中止.腎機能低下(eGFR30mL未満)は禁忌.
・SGLT2阻害薬:インスリン,SU薬(血糖非依存性にインスリン分泌を促進)と併用する場合には,低血糖に十分注意する.脱水になりやすいやめ、脱水を起こさないよう,患者に指導する.
・DPP-4阻害薬:SU薬に併用する場合は,低血糖のリスクが増大するおそれがあるので,SU薬を減量することが望ましい.なかでも,高齢者(65歳以上),軽度腎機能低下者(Cr 1.0mg/dL以上)では,SU薬の減量を考慮する.DPP-4阻害薬は水疱性類天疱瘡と関連しているため,掻痒感を伴う紅斑,水疱には注意が必要.また,頻度は少ないものの急性膵炎リスクを高めるため,肥満やアルコール多飲者では注意が必要.
・GLP-1受容体作動薬:他の糖尿病用薬(SU薬)との併用で低血糖が現れることがある.副作用として下痢,便秘,嘔気などの胃腸障害が投与初期に現れることがある.
・スルホニル尿素薬(SU薬):重大な副作用として遷延性の重篤な低血糖がある(特に高齢者では注意).初期症状(強い空腹感,動悸,冷汗,脱力感など)を説明し,気づいたら直ちにブドウ糖または砂糖を摂取.α-グルコシダーゼ阻害薬(小腸で糖類をブドウ糖に分解する酵素を阻害)を併用している場合にはブドウ糖を摂取.
・チアゾリジン薬(ピオグリタゾン):副作用として特に女性に浮腫が現れやすいので注意.女性,高齢者の投与開始量は1日7.5~15mg.
・食後高血糖改善薬(α-グルコシダーゼ阻害薬,速効型インスリン分泌促進薬):必ず食直前に服用する.食後では効果がない.
・唯一の経口GLP-1受容体作動薬セマグルチド(リベルサス)は,胃局所から吸収されるので胃部分切除や胃全摘の場合,十分な効果を発揮できない.
・イメグリミン:ビグアナイド系薬剤は作用機序の一部が共通しているため,両剤を併用した場合,便秘,下痢などの消化器症状が投与初期に多くみられる.

★糖尿病治療薬の種類別分類・・・種類別の代表的商品名★
インスリン分泌促進系
 血糖非依存性
  SU薬・・・アマリール、グリミクロン、オイグルコン
  速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)・・・ファスティック、スターシス、グルファスト、シュアポスト
 血糖依存性
  DPP-4阻害薬・・・ジャヌビア、グラクティブ、トタセンダ、テネリア、エクア、マリゼブ(週1回でよい)
  GLP-1受容体作動薬・・・リベルサス(経口)、オゼンピック(皮下注・週1回でよい)
  イメグリミン・・・ツイミーグ
インスリン分泌非促進系
  ビグアナイド薬・・・メトグルコ
  チアゾリジン薬・・・アクトス
  αグルコシダーゼ阻害薬・・・ベイスン、グルコバイ
  SGLT-2阻害薬・・・スーグラ、フォシーガ、デベルサ、カナグル、ジャディアンス

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